弁護士 猪野亨のブログ |

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予備試験が1万人超! 法曹志願者は減っていない?

2013.05.20 Mon

09:23:39

 司法試験予備試験の受験者は、毎年増加を続け、今年はいよいよ1万人を超え、他方で、今年の法科大学院の入学者数は、2700人弱となり、法科大学院離れが顕著になりました。
 当たり前です。
 法科大学院には最低でも2〜3年は在籍しなければならず、法科大学院を修了しても司法試験に合格できる保証は全くないのですから。
 これは単に底辺校の問題ではありません。底辺校自体は論外でしょう。地元にある法科大学院だからという理由であればそれは理解できるのですが、地元でない底辺校に入学するのは何故なのかという動機が全くわかりません。
 他に進路としてなかったからでしょうか。
 底辺校の問題は、入学志望者自体が少なく、極端な話、受験すれば誰でも合格させている状況です。ただ文科省から2倍の競争率は確保せよというお達しがあったから一定数の「不合格者」を出すようになりましたが(それでも少なくない法科大学院の競争倍率は2倍未満です。)、法科大学院の入試における選抜機能は全く機能していないのですから、そのような法科大学院に「入学」できたところで将来的な展望があるとは思えません。

 このような法科大学院の中には島根大学法科大学院のように国立でありながら補助金削減の対象となり、今年の入学者数も2名と低迷しています。統廃合の対象となるのが当然ですが、島根県弁護士会の意見は地域適正に配慮せよ、要は島根大学法科大学院を残せという意見を出しています。
「「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」について」

 何をやってみたところで、島根大学法科大学院が生き残る道はありません。
 山陰地方からの法曹排出を求めるのであれば、端的に法科大学院を廃止すればよいのですが、何故、ここまで法科大学院制度に固執するのか、全く理解しかねる発想です。

 他方で、「定評」(この「定評」の意味は、「「定評ある法科大学院」側にある驕り」Schulzeさんのブログをご参照ください。)のある法科大学院では累積合格率は7〜8割ということになっていますが、逆にいえば2〜3割は合格できていないということでもあります。
 「定評」のある法科大学院であっても、それだけ不合格率があるのであれば、それはもう立派なリスクです。
 例え、東大法科大学院であろうと、一橋法科大学院であろうとなのです。
 これは入試での選抜が機能していないことの裏返しでもあります。
 これでは2〜3年、そして高額な学費を注ぎ込むなどということはできようはずもありません。

 これに対し、予備試験は、お金がかかりません。予備試験のための予備校に通うということもあるでしょうが、元々、現役の法科大学院生も少なくない人たちが予備校は利用しているでしょうから、大した差ではありません。何よりも、会社を辞めたり、あるいは法科大学院という進路に固定されるということがないので、後戻りが可能です。
 予備試験に流れるのは当然のことです。

 ところで、予備試験受験者が1万人を超えましたが、これは法科大学院志望者は減っても、法曹志望者は減っていないと言うことになるのでしょうか。
 結論からいえば、法曹志望者減のままです。
 誰でも受験できる以上、とりあえず受験するという層が一定数います。法科大学院のように入学してしまえば後戻りができない場合とは決定的に異なります。
 これは旧試の時代も同様です。法学部に入学したのだからというだけの記念受験なるものも存在していました。大学の教養課程を修了すれば1次試験が免除されるので、卒業までの間、受験するだけしてみるというものです。
 また、その旧試の受験者数と比べてもみても、とても多いとはいえません。旧試が常に3〜4万人の受験者がいたことを考えれば激減状態です。
 とてもではありませんが、法曹志望者が減っていないとはいえません。

 この予備試験ですが、毎日新聞(2013年5月19日)の記事には、法科大学院協会事務局長の中山幸二・明治大法科大学院教授のコメントが掲載されています。
受験技術に走る人が増え、視野の狭い法律家を生むと批判された旧司法試験の反省から、原則3年かけて幅広い法的素養を身につける法科大学院制度が導入されたのに、予備試験組がエリート視されるゆがんだ風潮が広がりつつある。予備試験に年齢制限を設けるなど、早急な見直しをしなければ、法科大学院制度は破綻する。」

 予備試験に年齢制限?
 これはどちらに制限するのでしょうか。〜歳以上? それとも 〜歳以下?
 通常は、〜歳以上という制限でしょうね。現役の学生が予備試験を受験することを苦々しく思っているようですから。しかも20歳代の合格率が極めて高いのですから、この世代には予備試験を認めたくないというのが本音でしょう。

 この予備試験ですが、元々、学生有利の問題内容なのです。受験技術うんぬん以前に、法律科目だけでなく一般教養試験も受験科目にあり、英語やら物理やらということになれば、どう考えたって大学入試を終えたばかりの学生こそが一番、有利になるのは当然なのです。
 この一般教養の導入は法務省の意向によるものですが、法務省も最高裁も、建前では法科大学院制度に協力していますが、本音では、若い優秀なエリート層こそが人材の給源と考えていることでしょう。
 この一般教養を残した予備試験、しかも30歳以上でないと受験できないということになれば事実上、予備試験は「廃止」と同じことになります。
 もともと、法科大学院は、司法試験合格者数を激増させるため、全体の質を底上げするためだけに創設されただけなのですから、今さら「受験技術に走る人が増え、視野の狭い法律家を生むと批判された旧司法試験の反省」なんていうお題目はやめてもらいたいものです。


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コメント

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 今の状況では予備試験を目指す人が増えるのは当たり前だと私も思います。法科大学院に通い、天井知らずの費用と労力と時間をかけて得られるものは「5年間で3回司法試験を受験できる資格」だけ(しかも、法科大学院は原則受験指導禁止であり、テストにうまく対応できない学生を少なからず生み出す)。首尾よく受かればまだいいものの、合格できなければ全てが無駄になってしまう(合格率は25%にすぎない)。現状では法科大学院修了という経歴は、社会において全く積極的な評価を受けておらず(つぎ込まれた金と労力を考えるとこれはひどい話である)、ゼロどころかマイナスからの再起を余儀なくされてしまう。これでは全く同じ資格をより安価にしかも受験勉強に専念できる形で得ることができる予備試験に、法曹志望者が向かうのは仕方ないことです。それどころかこの状況であえて法科大学院に進む人はよほど自信と経済的余裕のある人だけでしょう。

 政府も各法科大学院も、弁護士会も一度全修了生の実態調査をすべきなのだ。「彼らが今何をしているのか?」、そして「法科大学院修了の経歴が生計を立てる上で何かしら役に立っているのか?」、この質問に対する回答はおそらくすさまじいものになるはずです。正しく問題を問題として認識しなければ対策も立てようがありません。結局、すべてのひずみを個々の修了生に押し付けて切り捨てようとしているとしか言いようがない(「自己責任」という言葉がまたまた都合よく使われている)。

 正直、今の法科大学院制度は限界に近づいています。まだ、昔の制度のほうがましというほかない。旧司法試験にも問題は少なからずあったが(例えば「問題のための問題」と化している設問がなかったとはいえまい)、多くの法曹志望者をとてつもない苦境に追い込むばかりの現行制度よりはまだましです。今ならばまだ法科大学院生及び修了生に相当の救済策を講じたうえで軟着陸させることもできるでしょう。でもこれ以上続けるとそれもできなくなります。

 ただし、現行制度の批判説の中にも問題のあるものはあります。特にはなはだ苦しい状況の法科大学院生(修了生含む)の立場を何一つ慮ることなく、平気で冷笑を浴びせかけるような言説は批判されるべきです(それは「いじめ」に等しい)。

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